暫くして参加者全員が集合したので、志賀先生から伊吹山に関して話があった。作家深田久弥氏の「日本百名山」の初版本が来年出版予定で、伊吹山が本編の八十九番目に紹介されています。巻頭の言葉に「百の頂に百の喜びあり」とあり「百の頂があれば百の喜びあり」と言われています。私の好きな言葉ですと志賀先生は説明された。続けてスケジュールの確認があった。「今後の予定はメモに書いた通りですが、天候については今晩から明日の朝にかけて曇り時々晴れの予報で、明日の夕方には天候が少し崩れ降雨になりそうです。気温の注意ですが山の気温は、高度が百メーター上がるごとに零点六度低くなり伊吹山が標高千三百七十七メートルで凡そ気温差は地上と比べて八度程低くなります。夜間十五度前後が予想され早めの防寒具の対応が必要です」「次に今回の山登りに関して大事な留意事項があります。知ってほしいのは一人だけで登るのではなく、パーティ全員で行動し登ると言う事です。当然体力差がある者同士のパーティですから先頭に体力のない人をペースメーカーとして配置して歩行しているという事を忘れないでください。登り方などについては現地で直接具体的に確認の上教えていこうと考えていますのでよろしくお願いします。バスの出発時刻も近づいて来ていますので、お寺のごえんさんにご挨拶をして出発したいと思います、それではごえんさん行ってまいります」と志賀先生の出発の合図で全員がそれぞれ挨拶を交わして駅のバス乗り場に向かった。ごえんさんは一言「道中ご無事で六根清浄」とパーティに合掌した。長浜駅前停車場からバスの終着の上野口までは順調に時間通りの運行だった。伊吹山の登山口前の三之宮神社まで徒歩で移動し井戸水を水筒に給水して補給し、簡単な夕食を済ませてから志賀先生の山の登り方について話を聞いた。「最初はみんな初心者なんで経験してみない事にはわからない事が多いと思いますが、最優先は安全第一で自分の身を守る事が一番大事な事です。そのためには平地を歩くのではなく斜面の角度のある場所を歩いて登る事ですから、斜面に対してジグザグに歩行して段差のある所は歩幅を小さくして横歩きをするようにしてください。それから歩く際には踏み込んだ足の裏全体に体重を乗せておしりの力を利用して膝を上げて段差を登るようにしてください。あと、呼吸を整えてしんどくなったら深呼吸を心掛けてください。登り始めて二合目まではけっこう岩の段差と急な坂が続きますから、ゆっくりなペースで三十分位準備運動のつもりで行きましょう。三合目で休息を予定していますのでトイレはそこで済ませてください。体調が悪くなったり気分がよくない人は早めに申し出てくださいね。日没が午後七時の予定ですから後一時間はあります。明るいうちに一合目の樹林帯を抜けておきたいと思いますので、予定の六時に出発しますので準備をしてください。登る順番は女性が先頭で私の後についてきてください。後は男子のグループで相談して決めてください。最後尾は体力のある人が良いでしょう」と説明があった後「では出発します、斎藤くん大丈夫ですか」と志賀先生に促された信哉は「大丈夫です」と自分自身に言い聞かせた。
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