【ポプラの木】~第三章サーカス④暫く真知子を見送った麻沙子が「ノブ今晩父さんの前でお仕置きやな」と言った。「父さんだけはかんべんして後で理由を説明するんでお願い」と信哉は弁解した

suno ai

暫く真知子を見送った麻沙子が「ノブ今晩父さんの前でお仕置きやな」と言った。「父さんだけはかんべんして後で理由を説明するんでお願い」と信哉は弁解した「しょうがない子ね、またいつもと同じや」と麻沙子はため息交じりに言った。
「いけないもうこんな時間二部始まってる急がなきゃ」と麻沙子があわてた。サーカスは二部の曲馬団のショーが佳境を迎えていた。麻沙子も曲馬団のキャストにサポート役で配属されていた。深い夜の漆喰の闇に馬のいななきが赤いテントの梁の上に響きわたり外の雨模様の雨しずくのテントの布を打ち付ける音が、曲馬団の楽団の物悲しいラッパの響きとあいまって、不思議に空気と溶け合っている様子だった。大きな拍手とざわめきが波のように繰り返しテントの中から聞こえた。夕刻を迎えて二回興行最後のフィナーレのパレードが終わりを迎えていた。生まれて初めて見る光景だった、人馬一体のギャロップのスキップを踏んでの大団円だった。ざわめきと雑踏の中で家族ずれや親子が帰路に着こうと慌ただしくしている中で、座席で座ったままの、真知子の姿があった。「真知子どないしたん、あわてんでええけどぼちぼち帰ろか」と修三が声をかけた。「そやかてお父さん、なんか感動して動けへんの、こんなんやったら無理にでもお母さんも一緒に連れて来るんやった、残念」と真知子はため息交じりに言った。「まあでも今日の事は急な話でお母さんも親戚の用事があっての事やから仕方ないな」と修三があきらめて言った。「それより斎藤君の方は大丈夫なんか」と修三が聞くと「それなんやけど何とかなった思うけど、正直なとこ明日学校に行ってみん事にはわからんは」と真知子は半信半疑に答えた。
「そうか、明日の事は明日になってみん事にはわからんしな」と修三もあいまいな返事をした。「そうそう、さりげなく吹く明日の風や」と真知子がのんきに言った。「なかなかうまい事ゆうなそんな事どこで習ったんや」と修三がたずねると「ないしょでもひょっとしたら土曜学校で聞いたようなそんな事忘れたわ、ははあ」と真知子ははぐらかした「土曜学校て誠心寺さんとこか」と修三が聞くと「そうや」と真知子は相づちをうった。「さ帰りおそうなるで、お母さん夕ご飯作って待ちくたびれてるで、帰ろ」と修三が促した。「夕ご飯て聞いたらなんか急におなか空いてきたわ」と真知子は修三を見て微笑んだ。

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