信哉が小学校からお旅所の設営テントに戻ったころには、日はとっぷりと暮れかけて、琵琶湖の対岸の高島に位置する、函館山あたりに夕日が沈みかけていた。
信哉のサーカス団は、団員との共同生活を営んでいた。お旅所の敷地いっぱいにサーカス小屋の大テントが設置され、生活する場所としてトレーラーとバスを接続させて、テントを組み合わせたテント小屋が二つ用意されていた。一つはサーカスでの動物ショーの犬や曲馬団の馬に、猿まわしの猿などが檻に入れられていた。もう一つ別のテントに団員の家族が寝泊まりをしていた。
信哉はトレーラに戻るとベットに仰向けにゴロンと寝転がった。信哉はどうしても、転校した学校での生徒とのやり取りが何時もいやな思いを沸き立たせているのを感じないではいられなかった。また何時もよそ者扱いのいやな感じが湧きおこっていた。その事が信哉にとっての興味や関心を示す生徒たちに心を閉ざす事で現実を回避できる事をよくも悪くもこれまでの転校の経験からわかっていた。
そんなところは同い年の子供からすると子供ずれしいているような大人びた感情だった。
それは独りぼっちの影だった。
そんな心配から予期せぬ体の不調として信哉の身に起こった。学校の方には体調の不調により暫く養生すると欠席の届け出があった。D組の誰もが二・三日ぐらいの事だろうと思っていたが、さすがに一週間に及ぶ頃には信哉が噂の的になる事はなかったが一部の心配性のおせっかい焼きを除いてはの事だった。今回の予期せぬ欠席で一番心を暗くしたのが隣の席で信哉の事を気にかけていた真知子だった。真知子は意外にも人見知りなところがあったが一度心を開いて打ち解けると、あとは自然に無二の親友としてつきあえた。そんな真知子の面目躍如たるおせっかいな性分の「おこないさん」がいつもそんな時に限って出しゃばった。「真知子に越えられない壁はない」どこからともなく言い聞かせるささやきが耳元に聞こえた。いまだサーカスに足を運べてない状況に、せかされるように学校から帰るなり、いの一番に修三に話した。
「お父さん、次のお店の休みにサーカスに連れてって」と真知子が急な話を持ちだした。「また急な話やな」と修三はびっくりした。「そうなんや、少し訳ありなん」と真知子は説明しかけた。「前にも話したけど、私の組にサーカスの団長さんの子が転校生で転入してきたんよ。でね、席が隣になった訳、でも学校に一週間ぐらい通って来た頃から、急に学校に来なくなっちゃったの。どうしてるのかなって心配になって一度様子を知りたいしもう行くしかないなって事になったんだ」と真知子が事情を話すと、
「それは真知子一人がする事、それともD組の子も一緒なの」と修三が心配して、言うと
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