【ポプラの木】~第五章 夏中さん②翌日豊国神社に直行すると神社の周辺に人だかりができ十重二十重と人垣ができていた。自然と大人の間に子供が覗き込んだ様子だった。

suno ai

翌日豊国神社に直行すると神社の周辺に人だかりができ十重二十重と人垣ができていた。自然と大人の間に子供が覗き込んだ様子だった。丁度大人の後ろでうろうろしている次郎の姿を見つけると、「おい次郎」と声をかけた。「俊雄くんいたか」と聞くと「今ここにいたけど」という次郎の心配をよそに、俊雄はすでに前の方を陣取っていた。「相変わらず要領がええな」と隆は感心した。前の大人の隙間から前に行かせて下さいと、次郎と隆は前に押しやった。三人がかぶりつきの真ん前に陣取った。「よし三人組そろたな」と俊雄が言った。さあこれからという時にかぎって
「あかんみんな撤収や、前の二列目に教頭先生いてるやん」と目のいい次郎が言うと「ほんまにか」と隆が疑う。「嘘やない一度見たら忘れん顔や」と次郎。「しょがない、みんな一旦後ろに下がろ」と俊雄が指図した。
三人が慌ててその場をやり過ごすとすぐに豊国神社からサーカス小屋の前の方まで走っていった。「この後どないする、なんか白けたな」と次郎が投げかけた。「斎藤くんの曲馬団のサーカス見に入ろか」と俊雄が提案した。
「サーカスは父兄同伴」と隆が釘をさした。
「誰か当てがあるんか」と俊雄が二人に聞くと「僕んとこ、おじいちゃんが行ってもええゆうてたから、これから家に帰って頼んだら来てもらえるけど」と渡りに船の次郎が、助け舟を出してくれた。「それよりみんな入場料のお金大丈夫か、大丈夫やったらサーカス見に入る事にしょうか」と俊雄が判断した。「決まりやな」と三人がうなずいた。みんな初めてのサーカスをわくわくどきどきしては観覧した。楽しい時の時間ほど何故か不思議と早く過ぎ去る。
翌日隆が学校に登校すると、教室内が朝からいつも以上に騒々しかった。教室に入るなり騒がし屋の中心にいた繁和が教壇に立って大声で自慢げに話す姿が目に入った。
「おいみんな知ってるか、今日の新聞に豊国神社で人を集めてやってた事が事件となって記事になって出てるんや」と持ってきた新聞の紙面を見せながら鬼の首でも取った調子で繁和が黒板に赤チョークで新聞記事の見出しを書いた。「ペテン師による詐欺事件発生」
これを見て真知子が「内田くんやめとき、もうすぐ沢野先生来るよ、早く消しなさいよ」とうながしても「このままにしとく、どうせ先生からも話出るやろ」と乱暴にいい放った。D組の者も戦々恐々の表情を浮かべていた。
暫くして沢野先生が教室に入ってきた。黒板を見るなり、静かに黒板に書かれた赤文字を黒板けしで丁寧に吹きとった。D組のみんなは先生が何か言うに違いないと思っていたが意外にも先生は朝の挨拶の後、だまって出席をとっていき朝の会は一学期の保護者会の連絡事項だけで終わった。チャイムが鳴るとすぐに一時間目の国語の授業が始まった。その間、隆も俊雄も次郎も三人お互いに目を合わせて、胸をなでるしぐさを繰り返した。
茂雄だけが拍子抜けしたつまらない顔つきをしていた。それを見ていた真知子だけがほっとした表情を浮かべていた。さすがに沢野先生の無言の目力はふだん以上の凄味だった。

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