【VR映画ガイド第91回】「The New Yorker」が制作したウイグル自治区テーマのドキュメンタリー

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VRアニメで表現されたウイグル自治区問題

このプロジェクトは雑誌「The New Yorker」が制作しています。2部構成になっており、1部はブラウザベースの技術を使ったインタラクション作品「Inside Xinjiang’s Prison State」と2部は今回取り上げたVRドキュメンタリー作品「Reeducated」になります。

「Reeducated」は「再教育」収容所の元収容者のErbagyt Otarbai氏、Orynbek Koksebek氏、Amanzhan Seituly氏の3名の証言を元に制作されています。実際の本人たちの証言音声をそのまま作品の中で使っているため、施設内で彼らが行われてきた内容が生々しく語られます。

一部のシーンに気分の悪くなるような恐ろしいシーンがありますが、実際に新疆ウイグル自治区で行われていたとされる事実をテレビや新聞などで扱うニュース的な情報ではなく、VRなどの先端技術を利用することによって表現しています。

視聴者を通常アクセスできない空間に引き込み、実際の収容者やその家族、民族の立場に立って、問題や出来事を考えられるようになることが目的になっています。メディアの違いによって情報の受け止め方がどのように変わるのかを知る上でも重要な作品です。

オススメのポイント

1. 10時間に及ぶ生々しい証言を元に再現された「再教育」収容所

作品の舞台になる新疆ウイグル自治区にある「再教育」収容所に関しては、中国政府からのきちんとした情報はありません。あるのはウイグル人やカザフ人、その他の新疆少数民族の苦しめられてきた人たちからの様々な証言だけです。

本当に現実的にこんなことが行われたのかと耳を疑いたくなる内容ですし、これを語る本人たちもきっと思い出したくもない記憶だと思います。ただ黙っていたら表に出てこないこのような問題を勇気を出して語り、VRによってその状況を再現するのは非常に意味があることだと思いました。

2. VRアニメーションと実写VR映像の表現

「再教育」収容所に関しての情報は、前述したようにほとんどありません。その中で様々な周辺情報や資料を収集し、元収容者たちの証言を元にVRアニメーションで施設内を克明に再現しています。

収容所の各部屋には監視用のカメラが複数備え付けられており、鉄格子の狭い窓と一つのトイレ、2段ベッド数台に十数人の収容者が寝泊まりします。ベッドも人数分ないため、床に寝ている人たちもいます。部屋に備え付けられているテレビでは毎朝中国の国営放送が強制的に放送されます。

また教室のような部屋では講師が立つ教壇と収容者が座る机の間に鉄格子が敷かれ、異様な雰囲気の中、数時間の「再教育」用の授業が行われます。施設内では中国語しか話せず、収容者は自国の言葉や文化、宗教について語ることは許されません。ルールを破ると拷問されることもあったそうです。

そんな状況がVRアニメーションで表現されるのですが、アニメーションとは言え、気分が悪くなる体験でした。最後のシーンでは、勇気を持って証言した元収容者の3人が実写VR映像で登場します。そこには中国から離れて暮らす穏やかな表情の3人が体験者の前に無言で立っているだけなのですが、表面だけでは見えない元収容者たちの抱えた物を考えるといたたまれない気持ちになりました。

3. VRで伝える意味

現代においてこんな施設が本当にあるのかと疑ってしまうぐらい本当に恐ろしい体験でした。2017年、中国当局はイスラム教徒主体のウイグル民族数千人を強制的に収監し始め、2018年にはその数が100万人まで達しました。

第二次世界大戦以降、民族的、宗教的少数派の抑留としては最大規模と考えられています。収容所への立ち入りは禁止されているため、「Reeducated」は新疆ウイグル自治区の「再教育」収容所に収監された3人の男性たちの記憶を元に制作されています。

中国の政治思想や文化規範について徹底した刷り込みが毎日行われ、拷問体験や粗末な食事、窮屈なベッドの間隔など収容所の状況を360度アニメーションで詳細に表現しています。

また彼らの証言だけでなく、収容所の外観は衛星画像、地方政府の記録や報告書、流出したビデオや画像などの貴重な情報も使いながら慎重に制作されています。しかしこれらの情報が信憑性に乏しいと言うことで、中国政府はここで描かれているような事実が収容所であったということを否定しています。

現在この3人の男性は収容所を出て、中国国外で暮らしていますが、今でも悪夢にうなされたり、慢性的な痛みや記憶喪失など様々な障害に苦しんでいるそうです。

VRで直接的なインパクトを与えることによって、他のメディアでは得ることのできない共感性を生むことができます。この生まれた共感性をどこに繋げていくのかは体験した人の判断に委ねられています。

作品データ

タイトル

Reeducated

ジャンル

ドキュメンタリー

監督

Sam Wolson, Ben Mauk, Nicholas Rubin, Matt Huynh

制作年

2021年

制作国

アメリカ、カザフスタン

本編尺

約20分

視聴が可能な場所

Oculus TV / YouTube VR
https://www.newyorker.com/news/video-dept/reeducated-film-xinjiang-prisoners-china-virtual-reality

Trailer

Reeducated Documentary Trailer: Inside Xinjiang’s Secret Detention Camps | The New Yorker
Survival stories from three former prisoners who were detained in a Chinese “reëducation” camp.

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