【VR映画ガイド第42回】ナイジェリア誘拐テロ事件の傷跡を見つめたVR映画

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今後のジャーナリズムのあり方を変えるかもしれません

今回取り上げる「Daughters of Chibok(邦題:チボクの娘たち)」は今後のジャーナリズムのあり方を変えるかもしれません。

2014年4月14日にナイジェリア北東部のボルノ州にある小さな町チボクの女学校から276人の女子学生がテロ組織ボコ・ハラムに誘拐されるという痛ましい事件が起きました。「Daughters of Chibok(邦題:チボクの娘たち)」はその事件から5年後の2019年に制作された作品です。

事件が起きた当時は世界的に大きなニュースになり、ナイジェリア政府とボコ・ハラムとの交渉で最終的に107人が解放されました。今ではニュースで取り上げられることが少なくなってしまっていますが、この事件はまだ終わっておらず112人の女子学生はいまだに行方不明のままです。

このVRのドキュメンタリーは事件そのものに焦点を当てるのではなく、5年経った今でも家族や町の悲しみは続いていることを自分の目で知る作品です。

オススメのポイント

1. 自然な笑顔のチボクの人たち

チボクの女性ヤナが町や人々のことを案内してくれます。チボクは貧しいながら、のどかで平和な町です。女性たちはよく働き、農作業をしながら子供たちを育てています。大変そうですが、幸せそうです。

子供たちがカメラの周りを笑顔で走り回るシーンは、VRカメラという特殊な機材が自然に感じるようになるまで監督が時間をかけて作った深い関係性を感じます。

2. 笑顔の裏に隠された悲しみ

作品の途中からチボクの人たちの笑顔の裏に隠された悲しみや痛みを知ることになります。チボクは古代からの農法を使った農業の町で、労働の中心が女性たちです。10年以上にわたるボゴ・ハラムのテロ活動がチボクの農業や商業活動に影響を与え、貧困に苦しんでいます。

そんな中で起きた悲劇がこの誘拐事件でした。しかも作品の最初からチボクの町を案内してくれた女性ヤナの娘、リフカトゥもこの誘拐事件の被害者の一人でした。

しかも行方不明の112人の中の1人です。ヤナは日々、家族のために働き、子育てを淡々とこなしています。でもいまだ帰らぬ娘の衣服を洗濯し、部屋を片付けて、いつか帰ってくる娘の居場所が無くならないようにしている様子を見ていると心が痛くなります。

娘の衣服を畳みながら、今の心境を体験者に向かって語る状況は過去のドキュメンタリー映像では経験できなかった複雑な気持ちがあります。

3. ジャーナリズムとVR

VRは記録やドキュメンタリー作品と、非常に親和性があるのではないかと私は感じています。しかも今までの報道とはちょっと違う事実の伝え方になって行く気がしています。

「Daughters of Chibok(邦題:チボクの娘たち)」も監督が意図を持って編集やナレーションを考えているはずです。ただ映像が360度になっていて、その空間内に当事者しかいない中で物語が語られる状況だけでも、今までの報道手法とは変わっています。

自分(=体験者)がまるで報道人となって、目の前の当事者の話を聞き、事件のあった現場に訪れる体験をすることになります。そこで何を見て、何を感じるかは体験者に委ねられるのです。

作品を通して、今後どういうアクションを起こすかをダイレクトに訴えることができるのです。それは良い使い方も、悪い使い方にもなる可能性があります。ますます体験者、個々人のメディアリテラシーが問われていくのだと思います。

最後にJoel Kachi Benson監督は今回のプロジェクトについてこう話ししています。「今までチボクで感じたことがちゃんと伝えられていないといつも感じていました。しかしVRヘッドセットを初めて装着した瞬間、自分が伝えたいことを多くの人々に伝える方法をやっと見つけたと思いました。」

この作品は、アフリカのVR作品で初めて、第76回ベネツィア映画祭最優秀VR Story賞を受賞しました。また、作品を体験した人たちに向けてまだ帰らぬ娘の帰りを待っている112人の母親の生活が少しでも良くなるように支援を募っています。まず、ぜひ作品を体験してみてください。

作品データ

タイトル

Daughters of Chibok(邦題:チボクの娘たち)

ジャンル

ドキュメンタリー

監督

Joel Kachi Benson

制作年

2019年

本編尺

約11分

制作国

ナイジェリア

視聴が可能な場所

3DoFバージョン: VR Square(近日配信)

Trailer

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