アップルは、なぜVRライブストリーミングの「NextVR」を買収したのか

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5月14日、アップル(Apple)はアメリカのスタートアップ企業「NextVR」を買収していたことを明らかにした。

同社によるNextVRの買収については以前から噂が出ており、4月にはアップル関連専門Webメディアである9to5Macが「1億ドルで買収した」と報じている。以来両社は沈黙していたが、アップルは買収の事実を認め、NextVRも「我々は新たな方向へ向けて進みだす」とのメッセージをトップページに掲載し、これを追認した形だ。

一方、アップル・NextVRともに、「買収によってなにを行うのか」「なにが起きるのか」をコメントしていない。そこで、あくまで「予測」ではあるが、買収による成果がどうなるか、考えてみよう。

VRライブの草分け、ノウハウは多彩だがビジネスでの成功には疑問も

NextVRは、いわゆる「360度動画」によるVRライブエンターテインメント配信を軸にビジネス開発を続けてきた企業だ。

スポーツやステージイベントを360度カメラ・180度カメラなどで撮影して配信する、という発想は珍しいものではない。しかし、NextVRが特別であったのは、初期から大きなイベントパートナーを見つけ、本格的な配信を手掛けてきたことだ。

サッカーやバスケットボール、ボクシングなど、プロの大きな試合の配信を行い、それを多数のVRプラットフォームに提供してきた。Oculus製品はもちろん、VIVEやPlayStation VRと、幅広く対応していたのがポイントだ。日本でもソフトバンクが同社と提携し、アイドルの映像やキックボクシングの試合などのコンテンツを提供している。

(NextVRのサービス画面。サッカーからテニス、バスケットボールにスタンダップコメディと、多彩なライブイベントが配信されていた)

NextVRは単に配信していたわけではない。どういうイベントではどういう映像がいいのか、ということを想定した作りになっていた。例えば、2018年に配信されたサッカーのインターナショナル・チャンピオンズ・カップ(ICC)では、ピッチサイドの近くに180度・二眼のカメラが配置された上で、テレビ中継のように、ボールを追いかける映像がオーバーラップする形で表現されていた。

(2018年にサッカーのインターナショナル・チャンピオンズ・カップが中継された時の映像。ピッチサイドからの180度映像に、中継映像を重ねたような表現だ)

スタジアムとも一般的な中継とも違う形を模索していたという意味で、NextVRはかなり先進的で、実践的な取り組みを積み重ねていた企業、と言っていい。

一方で、同社が順調にビジネスを進められていたのか、ということには疑問も残る。2017年頃から本格的な配信を行なってきたが、その多くは「無料」。プロモーションや実験といった意味合いの強いものだった。この種のものを有料視聴にして、多くの収益をあげられている企業はまだない、と筆者は認識している。

本来NextVRも、他社よりも早期にコンテンツの価値を高め、プレミアムコンテンツを有料配信するビジネス、もしくはプレミアムコンテンツの付加価値から広告収益を得るようなモデルを考えていたのではないか、と思う。だが、複数のライバルが登場し、一方でそれらのライバルも「マネタイズ」という意味では苦戦し続けたことを考えると、確かに「新しい方向性へ進みだす」時期だったのかもしれない。

「従来機器向け」ならNextVRの知見は不要、「なにか新しい機器」向けか?

そこでなぜ、アップルは買収に名乗りを上げたのだろうか?

ご存知の通り、アップルは現在、AR機器の開発に力を注いでいる。中止された、というニュースが流れたこともあるが、コア技術である「ARKit」の開発が加速・継続しており、iPad ProにLiDARが搭載されたことなどから、AR関連開発には相応のエネルギーを注いでいることは間違いない。

アップルが「ARKit3.5」をリリース、LiDARで精度向上 | Mogura VR

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MoguraVR

ではそこで、NextVRをどう使うのか? ストレートに考えれば、AR・VR向けのコンテンツビジネスを、アップルのコンテンツサービスの中に組み込む際の軸とする、という施策があり得る。AR機器が登場したとしても、そこには当然、相応の価値が求められる。物珍しいだけでは、アップルの求める規模のビジネスにはならない。ひとつの価値提案として、360度・180度映像によるライブ配信、というものはアリだろう。

だが、それだけが狙いか、と言われると疑問もある。

むしろアップルが欲したのは「360度映像・180度映像の制作ノウハウ」かもしれない。ライブ配信だけでなく、ビデオ会議のようなコミュニケーションでも同じようなノウハウは必要になる。素早く撮影しそれを配信するための知見は重要なものだ。そこにはもしかすると、「技術やノウハウ的には延長線上にあっても、今の360度映像とは違う体験」もありうるかもしれない。例えば、LiDARやToFセンサー、フォトグラメトリーなどを使ってキャプチャした「3Dオブジェクト」の配信だ。そこでどうカメラを置き、どう見せるのか、といった部分には、360度映像・180度映像での経験が生きる部分も多々あるのではないだろうか。

これらはあくまで予想に過ぎず、どうにもぼんやりした内容だ。だが少なくとも、NextVRの知見は「スマホやタブレット、Macの上で映像を流す」だけならいらない。HMDやスマートグラスのように、今までとは違う視界を活かす機器で、初めて生きてくる。

だとすれば、今回の買収はやはり、「将来想定される新しいデバイス」を見据えてのものではないか――ということになるのだろう。

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