VRアートが魅せる未来とは? せきぐちあいみロングインタビュー

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360度自由な角度で鑑賞でき、作品の中に入り込んだような感覚を体験できるVRアートは、平面で描かれた芸術作品とは違った魅力があります。そんな新たな芸術のスタイルに2016年から取り組んでいるのが、せきぐちあいみさんです。

せきぐちさんのVRアートは、龍や草花といった日本的なモチーフを立体的に美しく描き出すのが特徴です。世界各地のイベントでライブペインティングのパフォーマンスを披露したり、TV番組でライブペインティングを披露したりと、幅広い活躍を続けています。

JapaneseVR Artist SekiguchiAimi【HTCVive/TiltBrush】
Drawing Japanese shrine in VR. Using HTCVive,and TiltBrush. SekiguchiAimi VR Art Gallery TIMEGLASSのPVでVRアートの製作、出演をさせて頂きました^^...

今回のインタビューでは、せきぐちあいみさんにこれまでの活動や、アートを制作するにあたって考えていること、将来の目標などについて、詳しく話をお聞きしました。

VRアートに夢中なうちにお仕事になっていた

――最初にVRアートを知ったのはいつ頃でしたか?

せきぐち:

最初にVRアートに触れたのは2016年です。HTC ViveやOculus Riftといった、一般向けのVRデバイスが発売されたタイミングですね。当時の私はYouTuberでしたが、色々と出演させてもらう中で、たまたま取材で体験させてもらったんです。

その時に初めて「Tilt Brush(※)」も触りました。「空間に立体が描けるって魔法みたい! すごく楽しい!」というのが素直な印象でしたね。しかも360度すべてに世界を作れる。なんて楽しいんだろうと。

※Tilt Brush
Googleが開発したVRイラストレーションアプリ。ペンツールを使って空間上に絵を描いたり、さまざまなエフェクトを空中に散らしたりできる。

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――それまでに絵などを描かれた経験はありましたか?

せきぐち:

VRアートに触れる以前に、3Dペンにハマっていましたね。プラスチックが熱で溶けて、立体を描くことのできるペンなんですけど、そのオフィシャルアーティストをやっていました。

ただ3Dペンはプラスチックが徐々に固まっていくので、ゆっくり描かないといけないんです。物理的に詰まったりといった問題も起こります。一方VRアートは360度の空間に描けて、思っていたようなラグとかズレとかのストレスも全然なくて…とても衝撃を受けました。

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「これをやりたい!」と思って、最初はVRを持っている方にお借りして、ちょこちょこ描くようになりました。そうして夢中で描いていったものをTwitterやYouTubeにアップしていたら、だんだん問い合わせが来るようになって、お仕事になっていきました。今時なデビューの方法ですね(笑)。

――ネットでの作品公開がにお仕事に繋がったと。

せきぐち:

自分としては「(このアートは)もう一回やり直したらもっと良くなるかな?」、「これを人前に出すのはまだ早いかな?」と思っていたんですけど、友達が「こんなの見たことないから出してみなよ!」と言ってくれたのが大きかったですね。SNSにアップしてみると予想以上に大きなリアクションがありました。

なので「自分ではボツだな」と思った作品でも、どんどん人前に出していくのが大事だと学びましたね。色んな作品を出すことで返ってくるリアクションが自分自身の学びに繋がるんだなと。”アーティスト”としてはここ数年のド新人ですし、地道に1人で練習するよりも、自分の鍛えている段階も見てもらいながら、その先で良いものを作るほうが大事なんだと思います。

――VRアートという未知の分野に初心者から挑戦するのは勇気が必要なことだと思います。せきぐちさんが一歩前へ進めたのはどうしてでしょうか?

せきぐち:

最初にVRアートに触れた時に「なんて面白いんだろう!」と純粋に思ったからでしょうね。「自分がこれだけ楽しいんだから他の人も絶対に楽しい!」という確信がありました。実際、アートを始めてから数ヶ月後にはスケジュールがいっぱいになっている感じでしたので。

――結果的に一般の方はもちろん、VR業界からも大きな注目を集めるようになりました。

せきぐち:

正直、最初は「これは私の実力ではなくVRのテクノロジーの力だから、VR業界の人には受け入れられないのでは?」と心配していたんです。ところが「自分たちにはできない使い方をしてくれている」と声をかけてくださる方が多くて。パルマー・ラッキー(※Oculus Riftの開発者)さんやアレックス・キップマン(※Hololensの開発者)さんも応援してくれました。道具を作る人とそれを使う人は、やっぱり別なんだなと、その時に思いましたね。パソコンも今ではアートやビジネスなど幅広く活用されていますが、最初に作り出した人たちはここまで想定していなかったでしょう。VRも今後予想を裏切るような活用法が次々と登場してくるでしょうね。

VRアートが自分のモノの見方を変えた

――VRアートで作品を制作するときは、描きたい対象を頭の中でどのようにイメージされているのでしょうか?

せきぐち:

VRアートの場合は前もって下描きが用意できないので、頭の中で「どこに何が存在して、どういう形で…」と、しっかりイメージできた状態で描き始めます。もちろん描いていく途中で変えていくこともあるんですけど。

360度すべてを立体で描いていくので、平面の絵のように一方向から見たものを描けばいいわけではないんですよ。たとえば孔雀は羽根を大きく広げた姿が印象的ですけど、VRアートでは正面から見た姿だけじゃなくて、裏側に回って見える孔雀のお尻まで描かないと成立しないんです。でも「孔雀のお尻ってどんな形だっけ?」って、急に考えても浮かばないですよね。だから動物園で本物を見たり、映像を見たりして、頭の中に全体を描ける状態になってからでないと制作できないんです。

――普段から資料を見てイメージすることが重要になるということでしょうか?

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せきぐち:

それはとても大事ですね。VRアートを始めてから、自分のモノの見方が変わった気がしています。例えば私は盆栽が好きなんですけど「盆栽の枝ってどうなっているんだろう?」と、下からのぞき見るようになりましたね(笑)。花を見る時も正面からだけじゃなくて、裏側の萼(がく)の部分を見てみたりして。

今まで注目していなかったところを見るようになったのは良いことだと思うし、私の人生をいろんな場面で豊かにしてくれているなと感じますね。

――サラリとおっしゃいましたが、かなり驚いています…! そこまで頭の中にしっかりとした立体イメージを想像できるものなのでしょうか?

せきぐち:

あくまで私の考えですが、昔から日本の芸術家たちは立体的にイメージした上での作品づくりを結構やってきたことなんじゃないかという気がしているんです。たとえば、日本庭園はどの角度からも見事に成立していますし、生け花や盆栽も空間ありきの美しさですよね。もともと日本人の美意識の中には、そういった空間全体を捉えて作っていく感性があるんじゃないかと思っています。だからVRとはすごく相性が良いんじゃないかなと。

私も日本的な題材をモチーフに作ることが多いんですけど、別にそれはクールジャパンだとか、海外ウケが良いからではなくて、空間に作っていくものとして相性が良いと思っているからなんです。

――そもそもVRアートの描き方はどなたから学んだものだったのでしょうか?

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せきぐち:

まったくの自己流ですね。現代は調べればすぐに情報のそろう時代ですが、VRの場合は情報にたどり着くことさえ難しかったので。描き方自体も試行錯誤している感じです。それが大変でもあるけれど面白いところでもあるなと思っています。自分1人で技術を開拓するのはとてもやりがいがあります。

――ちなみにVRの機材はこれまでどういったものを使用されてきたのですか?

せきぐち:

最初はHTC Viveで、2019年からHTC Vive Proになりました。他の機材も使っていますが、ライブペインティングの際は大きく動いて描きたいので、プレイエリアを広くカバーしてくれるHTC Viveのシリーズを使っています。

ソフトはずっと「Tilt Brush」を使っています。直感的に操作できるので、説明書がなくてもすぐ使えますし、細かく描き込めるので、とても良いソフトだと思いますね。

VRを接続するPCは、G-Tuneを使っています。「これからVRを始めたい」と思っている方は、パソコンのグラフィックボードは、とにかくケチらずに性能の高いものにしてください(笑)。VRだと、パソコンで作業する時とは比べものにならないストレスがあるんです。なにしろ見ている世界がズレたり遅れたりするように感じてしまいますから。私の場合はバーッと速く描いたりするので、若干の遅れも気になってしまうんです。

「とりあえずVRに興味を持った」という方には、Oculus Questもおすすめですね。5万円ぐらいで、パソコンを使わずにVRを体験できます。Tilt Brushも対応しているので、VRアートもできますね。

言語の壁を超えて、世界中が驚いてくれる

――せきぐちさんはVRアートを描かれるだけでなく、その制作過程をライブパフォーマンスとして公開されていますね。こうした試みはいつ頃から始められましたか?

せきぐちさ:

描き始めてから1カ月ぐらいで(パフォーマンスを)練習していましたね。描いている内に「これは制作する過程もすごく面白いな」と思ったので。

まだまだVRアートが珍しいものなので、今はどんな流れで生み出されるものかを伝えることも大事だと思っています。ライブペインティングのパフォーマンスを楽しんでもらいながら、その魅力を知ってもらいたいですね。

――ライブペインティングの披露は一発勝負が特徴ですが、実演中にトラブルが起こることもあるのでしょうか?

せきぐち:

無かったと思います。一度、雨が吹き込むような会場で実演するときに、「機材トラブルが起きるかもしれないから、描いているところを動画に撮って、それに合わせて描いているフリをしてくれ」とスタッフの方から言われ「絶対にやりたくない!」と断ったことはありますね。一度でもそれをやってしまえば、分かる人には見抜かれてしまいますし、その後の私の活動も全てウソだと思われてしまいます。機材のマイナスプロモーションにもなってしまうので、そういった事態は避けています。

イベント運営サイドの方々は「VRなんて新しいものを使って、いろんな機材トラブルがあったら困る」と思われるかもしれませんが、すでに安定してトラブルなく使える機器が広く普及していることも説明していきたいですね。

――また、せきぐちさんはライブペインティングを世界中で披露されていますね。国ごとに反応の違いはあるのでしょうか?

せきぐち:

どこの国でもリアクションが変わらないというのが、私が「VRアートはイケる!」と確信した要素の1つなんです。どこの国でも本当に新鮮なリアクションで喜んでくださるんですよ。VRアートには言葉とかは関係なく、人の心をワクワクさせるものがあるんだなと。「新しいテクノロジーで変わったことをやっている」のではなくて、本当に人の心に響くものであれば、今後発展していく可能性があると思っています。

この表現方法で本当に深いもの、良いものがどんどん生み出されれば、いずれこれが当たり前になって、100年後には伝統芸能的な由緒ある技術になっているかもしれないですね。

――海外で特に印象に残っているイベントやツアーはありますか?

【VR Artist Aimi Sekiguchi】WorldSkillsKazan2019 ClosingCeremony LivePainting
5min VR LivePainting at WorldSkillsKazan2019 ClosingCeremony. I drawing Russian traditional handcraft "Khokhloma". Zventa Sventana – Мужа дома нету ft. Ivan ...

せきぐち:

どの場所も楽しかったですけど、特に印象に残っているのは、ロシアの技能五輪国際大会(WorldSkills 2019)閉会式ですね。その時はアリーナで、4万人の観客がいる前で描かせていただきました。ロシアの歌手の方が唄っている中で、大きなモニターに表示しながらライブペインティングを披露したのは良い思い出になっています。

VRはヘッドセットをのぞきこむと、無限の世界が広がっているけれど、それはまだ少人数でしか体験できなませんよね。でも、ああいったパフォーマンスの形で、VRの楽しさを一度に大人数に味わってもらえたのは印象的な体験でした。

――4万人の観衆といった大舞台でライブペインティングを披露するのは大役だったと想像します。当日は緊張などされたのでしょうか?

せきぐち:

私は打ち合わせの会議室で数人の前でやるのも、技能五輪の閉会式で4万人の前でやるのも、同じ気持ちでやりたいと思っています。人数に関係なく、その場にいる人に向けて、新しい刺激や楽しさを届けようという気持ちがあるので。

――あくまで初めて目にする方のことを考えつつ、パフォーマンスをされているのですね。

せきぐち:

もちろん、アーティストによっては「わかる人だけ分かればいいんだ」と自分の世界を突き詰めていく方もいると思います。ただ私は他の人が楽しんでくれなかったら、自分が納得していても失敗だと考えているんです。私の原点は、自分が作った世界や自分のパフォーマンスで、よりたくさんの人に楽しんでもらいたいということなので、そこはブレないように心がけていきたいですね。

デジタル3Dアートは日常に飾られるものになる

――TV番組の企画で、乃木坂46の梅澤美波さんにVRアートを指導されていました。そういった形でVRアートを他の方々にレクチャーする機会もあるのですか?

せきぐち:

あそこまで本格的に教えたのは梅澤さんが初めてですが、体験程度ならたまにありますね。今は福島のほうで、子どもたちにレクチャーする計画もあります。

子どもたちに新しい楽しさを伝えるというのは、ぜひやりたいですね。その子たち自身の世界もきっと広がるだろうし、想像力も豊かになります。子どもたちからすると「変わった道具を使っている」という印象になるかもしれませんが、これから身近なものに変わっていくと思うので、早い段階でその魅力に触れてもらう機会を作れたら良いと思います。

――今後、VRアートはどのような形で広がっていくと思いますか?

せきぐち:

今のVRはゴーグルのような形状ですけど、AR機器やMRグラスのように、今スマートフォンでできることが、メガネのようなサイズでも扱えるようになれば、爆発的に広まるでしょうね。「広がるといいな」ではなくて、広がっていく未来が確実に見えているので、そうなった時に部屋の中に飾るものとして、デジタル3Dアートの需要が高まると考えています。

もちろん部屋の中だけではなくて、お店のPOPや飾り付け、道路に置かれる看板なども、3Dアートに彩られていくでしょうね。とても未来の明るいジャンルなので、開発者やアーティストなど、多くの人が活躍できる場所になるだろうと思っています。

人間にしか出せない温かみや情緒を表現したい

――せきぐちさんはVRアートを4年ほど続けられていますね。その間、世間の反応が変わってきたという実感はありますか?

せきぐち:

ありますね。少しずつですが、VRが「よく分からないもの」というリアクションから「面白い」という感想に変わってきているんじゃないかと思います。最近は「子どもがTVで見て、カッコイイと言ってました」といった感想も寄せられるようになってきています。デバイス自体もスタイリッシュに進化していることも影響しているでしょうね。

ただ、VRがみんなにとって身近なものになったかというと、まだまだそうではないですね。身近なものになる未来は確実に見えているから、そこにより早く到達できるように、私自身はVRの楽しさを伝える活動をしていきたいです。

そのため、(VRについて)なるべく分かりやすい言葉で、丁寧に説明するようにしています。皆さんがSNSを通じて見るのはスマートフォンの小さな2D画面なので、その中でどう伝えればいいのかを意識しています。そういう部分では、YouTuberの経験が生きているかもしれないですね。人生で色んなことをやってきて良かったなと思いますね。

――せきぐちさん自身が、これからチャレンジしたいことはどのようなことでしょうか?

せきぐち:

今はVRの仮想空間に描いていますが、ARを使えば、現実の空間の上に立体で作品を描けますね。コントローラを使わずに本当に魔法みたいに作品を生み出せたら楽しそうですね。

HoloLens2で近しいことはできるのですが、今はモニターに出力していると20分ぐらいでオーバーヒートしちゃうので、その点がクリアできれば良いですね。もし実現できれば、たとえば結婚式で会場にいる新郎新婦をバーチャルなアートで飾り付けるといったこともできますよね!

――非常に楽しそうな未来想像図ですね。最後にせきぐちさんの将来の目標をお聞かせください。

せきぐち:

伝統工芸や絵画といったアートには、人間にしか表せない温かみや、情緒といったものがありますよね。デジタル技術ではそれをなかなか表現できないですけど、VRからそういった感情を引き出せるようになれば、本当に新たな世界が到来したと思えるはずなんです。

「こんなの見たことない!」という世界を作って、人の想像力を広げるきっかけを作っていけたらと思います。それができれば、VRが当たり前の世の中になった時でも、理屈抜きに心に刺さるような作品と出会えるはずなので。

そのためにも、さらに突き抜けた表現方法やアイデアを考えていきたいですね。「世界中を巻き込むには?」「宇宙まで楽しさを拡大するには?」「別の生き物って何を魅力と感じるんだろう?」と自分も想像のスケールを広げるようにしています。だから最近は「ナスカの地上絵」のような壮大な創造物に興味があるんです(笑)。

自分が今、世界中を楽しませられているのは奇跡みたいなものなんです。だからこそ気になったことはなんでも試して、そこから楽しさを発見していきたいと思っています。

ーーありがとうございました。

執筆:伊藤誠之介
撮影&編集:ゆりいか
撮影協力:クリーク・アンド・リバー社

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