2020年のいま、フィンランドのVR/AR業界に注目したいワケ

未分類
この記事は約5分で読めます。

2019年11月、筆者はヨーロッパのVR/AR事情を視察するために、各国を回って取材を重ねてきました。訪問した6カ国の中で最も印象的だったのは、ムーミンの生まれた国フィンランド。人口500万人強の小さな国ですが、筆者はそこでVR/ARスタートアップの底力を目の当たりにしました。

スタートアップを支援する土壌

フィンランドはもともとスタートアップ文化で知られています。対GDP比で見たときにスタートアップへの投資額はヨーロッパでは第1位を誇り、調達規模も増加傾向にあります。世界最大規模のスタートアップの祭典「Slush」もフィンランドの首都・ヘルシンキ発祥です(なお、東京でも毎年「Slush Tokyo」が開催されています)。


(フィンランドのスタートアップに対する投資額の推移)

Maria01

首都ヘルシンキにある、スタートアップが集積したエリア「Maria01」。もともとは病院でしたが、今ではリノベーションした建物にスタートアップが集まるインキュベーション拠点になっています。

Maria01のCEO ヴィレ・シモラ氏によれば、「2021年までに欧州最大のスタートアップ拠点にする」とのこと。投資家とスタートアップだけでなく、パートナー企業、スタートアップを支えるエコシステム・サポーターズの4者が集まる場所です。

またイベントであるSlush、拠点Maria01とも、同じ企業の傘下にあるとのこと。Maria 01の共同オーナーにはヘルシンキ市も参加しており、行政も一体となってスタートアップ支援を進めていることが明らかです。

さて、ここからはMaria01で支援を受けているXR系のスタートアップの一部を紹介していきましょう。

Tribe.red

Tribe.redは2012年創業と古く、スマートフォンのARを使ったインストレーションを手掛けてきた企業です。最近になり、企業向けにARゲームを提供するプラットフォームを開発。ムーミン版ポケモンGoとも言える「Moomin Move」の開発を進めています。


(Tribered CEOのJani Järvinen氏、開発中の「Moomin Move」とともに)

「Moomin Move」では、ポケモンGoやドラゴンクエストウォークと異なり、女性をターゲットにしているとのこと。オープンβでは女性のプレイヤーが70%を占めており、かわいいキャラクターとの交流や店舗などで展開されるストーリーを楽しむ平和なゲームになるそうです。「ムーミンは、フィンランド以外では日本が最もファンが多いため、日本上陸も近い」とのことでした。なお、驚くべきことに、この企業は8名の少数精鋭チームで開発を進めています。

3Dbear

3Dbearは、ARを使った教育ツールを開発しているスタートアップです。同名のアプリ「3Dbear」は、簡単に3Dオブジェクトを配置することができるモバイルARクリエーションツールです。47ヶ国でダウンロードされ、8000以上の教室で使用されているとのこと。


(フィンランドの学習に関するフレームワークが3Dbearでも応用されている)

「私達のミッションは、子どもたちのクリエイティビティを開放することです」と語るのはCEOのKristo Lenhtonen氏。チームには教育学の専門家が参加し、フィンランドが世界に誇る教育フレームワークをアプリに落とし込んでいます。アプリでは、アイデアを3Dモデルを使って形にし、プロトタイプを作ってから実際のプロダクトにしていく過程をARで実践するという内容です。

地下鉄の駅のリデザインに子供たちのチームが3Dbearを使って参加し、実際にアイデアを3Dモデルを置いてプロトタイピングするような使われ方もしています。


(ARを使い子供たちが行った「窓際に植物を置く」提案)

フィンランドが積極的な理由

他にもMaria 01には、医療系のVRトレーニングを進めているOsgenicなど8から10ほどのVR/AR系スタートアップが参画しています。


(医療機関向けにトレーニングツールを開発しているVRスタートアップOsgenic。触覚デバイスを使い、フィンランドとドイツの病院にトレーニングを提供している。ヘッドセットには地元ヘルシンキにあるVarjoの超高解像度のVRヘッドセットを使用。市内のスタートアップ間での連携も盛んだ)

ヘルシンキはVR/ARの企業数こそ多くないものの、人の目レベルの超高解像度のVRヘッドセットを開発しているVarjoも輩出しているほか、ヘルシンキ市自体が市内のクリエイティブスタジオのZOANと進めている「バーチャル・ヘルシンキ」プロジェクトなど、官民問わずにVR/ARに積極的です。

Making of Virtual Helsinki
What is Virtual Helsinki and how was it made? Mikko Rusama, Chief Digital Officer of Helsinki and Miikka Rosendahl, CEO of Zoan tell. Learn more on how to vi...

ではそもそも、フィンランドがVR/ARを含めたスタートアップ文化を育もうとしている背景は何なのでしょうか。

1990年代、フィンランドの産業界で大きな存在感を放っていたのは携帯電話メーカーのノキアでした。フィーチャーフォン時代には世界を席巻していたノキアでしたが、スマートフォンへの移行に対応しきれず、2008年を最後にその売上が急落。最終的にはマイクロソフト傘下に入り、立て直しを図ることになりました。

ノキアが凋落した過程で、同社から多くの優秀なエンジニアが市場に放出され、彼らがスタートアップを立ち上げ始めました。こうした動きを受けて、行政支援がスタートしたのです。

ノキアの存在は、VR/ARのスタートアップにも大きく影響しています。ノキアでMixed Reality(MR)を研究開発していたチームが同社を離れた後、独自の道を模索して立ち上げたのがVarjoです。そしてノキアに残されたMRに関する技術は、マイクロソフトでHoloLensとして数年後に日の目を見ることになります。

そして、ノキアの凋落以降、フィンランドにできたスタートアップの中で真っ先に成功者を排出したのはゲームでした。「クラッシュ・オブ・クラン」のSupercell、「アングリーバード」のRovioはいずれもフィンランドのスタートアップです。

Maria 01のシモニ氏は、「ノキアに源流を持つハードウェア系のエンジニアとゲームを背景にしたソフトウェア系のエンジニアが両方存在している」とフィンランドのVR/ARスタートアップ人材事情を話します。「スタートアップ全体の数に比べればVR/AR系は少ないが、いずれも専門性が高く、質にこだわる企業が多い」と評します。


Maria 01のCEOシモニ氏

筆者が感じた「底力」の理由はここにあります。Varjoは2019年に立て続けに3つの製品を市場に送り出し、一躍注目を集めました。他のスタートアップも手堅く、しかし着実に戦略を立てています。

行政と一体になったエコシステムをベースに、モバイルゲームのスタートアップが世界に名を残したように、VR/ARのスタートアップも存在感を発揮するのか、その動向を見守りたいと思います。

タイトルとURLをコピーしました