所属ライバーの複数メジャーレーベルデビューをはじめ、オリジナルフルアルバムの発売、全国Zeppツアー開催など、新たな展開を発表したバーチャルライバーグループ「にじさんじ」。所属するバーチャルライバーたちは2019年中に国内90名を超え、YouTubeを中心に数多くのコンテンツやドラマを生み出し続けています。
今回、MoguLive編集部は「にじさんじ」のビジネス部門責任者を務めるいちから株式会社・鈴木氏にインタビュー。日々ライバーたちの活動を支援するそのスタンスや在り方、そして上記の発表について詳しくお聞きしました。
「VTuberという文化を、5年後も続けていけるような取り組みができた」
――2019年を振り返って、にじさんじの中で「特に大きく変化したこと」について教えてください。
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鈴木:
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今年は「にじさんじ Music Festival~ Powered by DMM music~」や「Virtual to LIVE in 両国国技館 2019」など、大型イベントに挑戦できたことが大きな変化ですね。弊社所属ライバーたちも自分の挑戦したいことに取り組んで、前向きに活動してくれました。VTuberという文化を5年後も続けていけるような取り組みの地盤を作ることができたと思っています。
これまで、弊社所属のライバーは数名でイベントに出演する機会こそありましたが、大人数が一気に参加する機会が少ない状態でした。自社で大型イベントを主催することで多くのライバーが出演できるようになり、ライバー同士がお互いのパフォーマンスについて相談や意見交換ができるようになりましたね。
――ライバー同士がイベントごとに意見交換しながら、ノウハウを共有しているということですね。
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鈴木:
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両国のライブ前はライバーたちが過去の経験をもとに練習に取り組んでいました。メンバー同士でダンスを教え合ったり、演出方法を提案し合ったりしている姿を見ていると、ライバーたちが前向きに活動できるような環境づくりができたのかな、と感じています。
にじさんじメンバーの“モチベーションの高さ”はどこから?
――先日行われた天開司さん主催の「ポケモン剣盾にじさんじ杯」は、6.5万人同時視聴というVTuber史上でも類を見ない大規模な配信になりましたね。にじさんじのバーチャルライバーはなぜ視聴者にこれまでの熱狂を与えられるのでしょうか?
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鈴木:
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CEOの田角がライバーたちの活動の魅力を“距離感”という言葉で表現していましたが、まさにその通りかな、と考えています。ポケモンというコンテンツ自体の魅力ももちろんですが、この場合は「普段仲のいい友だちが大会に出ているから応援しよう!」という気持ちに近いと思います。
にじさんじのライバー同士で1つのゲームをプレイする流れは「Project Winter」などでも見られたので、視聴者にとっては今回も同じような流れで楽しめたのではないかと思います。
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――にじさんじグループのライバーたちは全体的にモチベーションが高く、非常に活動的な印象がありますが、この積極的な姿勢はどこから来ていると思われますか。
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鈴木:
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あくまで運営サイドからの視点ですが、リアルイベントやにじさんじメンバーがメインMCを務めるラジオ番組などがスタートし、“YouTubeの外”に出ていく機会が一気に増えたことがモチベーションに繋がっているように思います。
様々な分野のプロフェッショナルと関わっているうちに「自分もプロフェッショナルになりたい/でありたい」という意識が伸びているのかもしれません。それぞれの現場でプロフェッショナルの方から技術や知識をインプットし、自分たちで新しいものをアウトプットする。そういったサイクルが促進されていれば良いですね。もちろん、そうではないメンバーもそれはそれで良いわけで。多様性こそがにじさんじの特性でもありますし。
――運営サイドからライバーと接するときに、仕事のやりがいを感じられることはありますか?
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鈴木:
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やはり、ライバーから活動に対して前向きな発言を聞いたときにやりがいを感じます。ラジオなどの企画で最初は緊張しているライバーたちが、回が進むにつれて徐々に緊張が解け、「またやりたい」「次はこうしたい」と、今後の話をしてくれるときは嬉しいですね。
にじさんじのライバーが活躍するために、運営ができること
――12月8日には所属ライバーのメジャーデビューをはじめ、オリジナルフルアルバムの発売、全国Zeppツアーの開催といった発表が行われました。来年以降はYouTubeの活動に加え、音楽アーティストとしての側面を押し出していきたいという流れでしょうか?
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鈴木:
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音楽アーティストを育成するのが大目標なのではなく、各個人の「やりたいこと」「やれること」を最大限広げていくための戦略のひとつと捉えています。ホームグラウンドであるYouTubeでの活動は崩さず、プラスアルファでライバーたちのやりたいことに手を伸ばせるよう、各社と協力しながらやっていくという流れですね。これをきっかけににじさんじの方針が大きく変わるというわけではなく、グループとしての活動は今まで通り継続します。
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――あくまでライバー個人のやりたいことの幅を広げるための施策のひとつ、ということですね。
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鈴木:
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そうですね。もちろん企画に関して、企業側からお声がけていただいたり、運営側から声をかけたりすることもありますが、どちらも共通しているのはライバー本人たちが「やりたい」と思っていることです。
例えば、ユニットでメジャーデビューしたレーベルについては、にじさんじの内部でオーディションを実施しました。参加希望者に音源を提出してもらったり、レーベルのプロデューサーと面談したり、課題曲に挑戦してもらったりしています。
我々が気をつけているのは、ファンの方と交流する接点を崩さずにバランスをしっかり取っていくことです。また、活動の幅が広がることで各ライバーのタスクは当然増えていきます。そこが溢れることのないよう、マネジメント部門でしっかり支えていけるような体制構築を続けている最中です。タレントのマネジメント事務所としての基本的な機能を手厚くしていく方針ですね。
――各ライバーの活動の幅が広がれば、今後はきっと曲から入ってくるファンも見られるようになると思います。
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鈴木:
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そうだと思います。バーチャルライバーの強みのひとつは「YouTubeを開けば会いに行けること」で、ライバーの場合は配信中に直接曲の感想を伝えられます。
今後は曲の制作過程もYouTubeで公開するという企画も考えています。例えば、曲の方向性をプロデューサーとディスカッションする姿を配信し、良い作品ができるまでのプロセスを体験してもらうという取り組みです。身近に感じられるアーティストとして活動できる場を作れたら良いと思っていますね。
――先日のライブは、発表も含めて大きな話題になりましたね。手応えはいかがでしたか。
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鈴木:
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前回の幕張ライブ(にじさんじ Music Festival)も高く評価していただきましたが、それをさらに超える評価をいただけた、と感じています。Twitterの世界トレンド1位に載るくらい各所で話題にしてもらえた、という事実は我々の励みになりますね。ライブ本編では「林檎もぎれビーム!」で各方面にインパクトを与えることが出来たのは素直に嬉しかったです。
今回高いクオリティを出せたのは、歌唱していた5人が全員「さよなら絶望先生」のファンという事が大きいと思っています。私にとっても非常に思い入れのある作品でしたので、歌っているメンバーの努力に応えるべく、映像や音響などの演出ディレクションにはかなり気合を入れました。
一方で、前回ご指摘の多かった物販は約50台のレジを用意して臨んだものの、多くのお客様をお待たせしてしまうことになったのは反省点の一つです。会場の問題などもあるためすぐに解決できるとは限りませんが、Zeppツアーではさらに改善できるように各所調整を進めています。
今後のにじさんじに必要なことは?
――今後のにじさんじについて、現状の課題や取り組んでいきたいものはありますか?
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鈴木:
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「VTuber業界は1年2年で終わる」という声が聞こえることがありますが、我々はありがたいことに右肩上がりに成長させていただいております。この成長を止めないよう、今は守りに入ることなくまだ攻める時期かなと思います。全国Zeepツアーも攻めの施策のひとつですし、2020年だけでなく2021年の計画も進行しつつあります。将来大きいことに挑戦しているライバーたちをイメージしつつ、そこに足りないものは何か、というのも考えて計画していますね。
グッズも今年の前半と後半で方針を変えていて、見比べてみると少しずつ変わっていることが感じていただけると思っています。
――にじさんじのグッズに関しては「Fragrance5」の香水が印象的な取り組みでした。
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鈴木:
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香水は現在第二弾を販売中ですが、前回よりもクオリティが高くなっています。定番グッズとしてワンパターンにならないよう、本人のキャラクター性に紐付いたユニークなグッズを展開していきたいですね。
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――個人に紐づくグッズを展開すれば、ライバーとファンの距離感も近づくように思います。
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鈴木:
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コアなファンの皆さんは、配信を通してライバーの好きなものをよく知っています。ライバーの好きなものに紐付いたグッズを展開することで、そういったファンの方々にも喜んでもらえるかなと。例えば、冬コミで販売するジャケットは、ライバーと打ち合わせをしながらデザインを調整しています。
様々な“きっかけ”づくり
――話は変わりますが、新規ファンを獲得するために、にじさんじの運営サイドが気を配っていることはありますか?
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鈴木:
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今回のZepp全国ライブもそうですが、地域や場所に囚われず、色々なところに飛び出していこう、と考えています。10月の幕張のイベントでは「ファンの友人の付き添いで来たけれど、ライブをきっかけにファンになった」というアンケートが寄せられたりもしていました。会場キャパシティの問題も解決できるよう対処しつつ、色々な方々にライブを体験していただいて、その感想を周りに共有してもらえるようになることが新たなファンを呼び込むために重要ではないかと感じています。
Webでイベントの無料配信を多く行っているのも、その一環です。幕張メッセではDJタイム+2曲でトータル40分ほど無料視聴できる体制を整え、両国では6曲+MCをだれでも視聴できるようにしました。普段の配信は基本無料で見られるからこそ、友達に勧めやすいという側面もあると思っています。音楽ライブについてもそれが出来るよう最大限調整しているので、ぜひ周囲の方々にも勧めていただけると嬉しいです。
――最近公式チャンネルでうちささんによる「ぷちさんじ」という短編動画が公開され、人気を集めていますね。
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鈴木:
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弊社所属のライバーは生放送中心なので、膨大なアーカイブを全部視聴するのは難しい、というのは実際あると思います。そこで、元々ファンとして活動をしてくださっていたうちささんに依頼し、公式として配信の見どころをピックアップしてYouTubeとTwitterに展開する取り組みをスタートしました。高い評価をいただいており、今後にむけて新たな取り組みができるよう準備をしているところです。
【ぷちさんじ】流れできたねこれは… 編を公開!
チャンネル登録者数10万人を迎えた黛灰。その記念放送の内容とは・・・?
ぜひご覧ください!フル版はコチラから!▽https://t.co/q6dsuP9un0#ぷちさんじ pic.twitter.com/zP6oVfDOv0
— にじさんじ公式
(@nijisanji_app) November 29, 2019
2020年は次のフェーズへ
――最後に、2020年のにじさんじの運営としての目標を教えてください。
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鈴木:
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イベントの増加はもちろん、メジャーレーベルとの連携だけでなく、さらなるコンテンツビジネスの展開を進めています。当然ながら全部が成功するかは分かりませんが、伸びた部分を主軸に、にじさんじが次のフェーズに進めるような体制を準備しています。そして、今後も増えていくであろうライバーたちをしっかりと支えていくため、タレント事務所としての機能をより強化していきます。
これらの取り組みを通じて、新たな才能ある方がこのグループに加わりたいと希望してくれたり、現所属メンバーが我々と活動を続けたいと思ってくれたりするような場を作っていきたいですね。
――ありがとうございました。
いちからの"2019年の挑戦"から見えてきたものは? CEO・田角陸氏インタビュー
MoguraVR
(取材:MoguLive編集部、協力:いちから株式会社)