「ある日突然すべてを奪われなくなってどうすることも出来なくなること」を体験する
制作をしたのは「バーチャルリアリティ映画製作―ハリウッドの実践テクニックとベストプラクティス」の著者でもあるCeline Tricart氏です。彼女はVRを使ったストーリーテリングに以前から挑戦していて、クルディスタンで戦う女性たちを撮影した「The Sun Lady」が有名です。
「The Key」は最初体験した時の印象は、今までのCeline Tricart監督には珍しいファンタジーな作品かと思わせるような感じでした。一見そう思わされたのですが、実は深い社会的なメッセージが隠された作品です。
幻想的な異世界で、ある日住んでいた場所が襲われ、暴力的で怖い何かに大切なKeyを奪われてしまいます。悲しく、どうしようもない気持ちになっていると、それまでCGで描かれていた風景が実写映像に変わり、これは難民となった人たちの記憶なのだと気づかされます。
この作品は「世界のどこかで戦争に巻き込まれた人々」を観るのではなく、「ある日突然すべてを奪われなくなってどうすることも出来なくなること」を体験する作品なのです。
オススメのポイント
1. 導入
ヴェネツィア映画祭で体験した時には、実際に鍵のかかった部屋の中に入りました。その際に耳にヘッドホンをつけて入室します。すると本物の女性(=役者)が立っていて、その女性が自分の星に起きている酷い物語を語ります。
その後、ヘッドマウントディスプレイを被るように促され、VR空間へ。ヴェネツィアでの体験は現実から仮想への移動が非常にスムーズでストーリーに即座に没入できた気がしました。オンライン配信ではヘッドマウントディスプレイを被ると地球外の星の生物が物語を語るように変わっています。
2. 視覚演出
表現方法としてはTilt Brushやフォトグラメトリーというような新しい表現方法に挑戦しています。ただ物珍しさで使っているのではなく、この話を伝えるために効果的に視覚演出を工夫しているのがポイントです。また色の使い方も非常に意味が込められています。物語の中で出会う不思議な友達の存在は赤、青、黄色に染められた球体の生物です。ストーリーの中で、その友達を悪い生物に奪われることで世界の色が奪われていきます。
3. シーン転換
シーン転換にも工夫があります。シーンが変わる際に今まであった風景がゆっくり消えたり、現れたりする感じが、自分の大事な風景を無理やり奪われる感じで、とても内容にあった効果です。
4. ストーリー
この作品は幻想的な異世界で、恐ろしい怖い存在に突然自分が住んでいた大事な場所やものを奪われてしまう体験をします。
最後にはこの話がファンタジーで作り話ではなく、戦争で自分の居場所や大事なものを奪われた人たちの実話であることを突きつけられます。特に物語の最後、爆撃を受けた後の部屋に立つのですが、このシーンは非常に衝撃を受けました。
TVやインターネットのニュースなどで受け取るよりもこのようなVR体験の方が衝撃的で、記憶に残ると体験になったと思います。最後に体験者は鍵をプレゼントされるのですが、その鍵の意味について色々と考えさせられます。
作品データ
タイトル |
The Key |
ジャンル |
ドラマ |
監督 |
Celine Tricart |
公開 |
2019年 |
本編尺 |
体験者による |
製作国 |
アメリカ |
受賞等 |
第76回ヴェネツィア国際映画祭 最優秀VR賞受賞 |
体験可能な場所 |
オンライン:Oculus Store |
Official Trailer
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