滑稽だが、なぜか懐かしいリアルミラーワールドの日常
私が2018年のカンヌ映画祭で出会ったドキュメンタリー作品です。ドキュメンタリーとVR映画は非常に親和性があると思っていましたが、『The Real Thing』(邦題: 『模倣都市 -世界の美しい都市がここに-』)はその特性を上手に使っています。
リアルミラーワールドとは、ある都市の景色を似せて建造された場所のこと。本編に登場するのは中国に作られたパリ、ベニス、ロンドンの町並みです。日本の東武ワールドスクウェアとはスケールも、本気度も違います。町の建物や橋、噴水や道のタイルまで本物そっくりなのです。
何のためにこの町が作られたのかには特に触れられていませんが、町には中国の人たちが本当に暮らしています。コピーされたパリのエッフェル塔を警備する青年は、困惑しながらも愛着を感じ始めています。女店主が模倣されたパリで飲食店を自力で経営し、プレッシャーに押し潰されそうになっている場面も。ベネチア風やロンドン風の町に住む骨董品店の店主や写真家なども登場し、模倣された町に住む人々の生活が描かれます。
住んでいるのは中国の人たちで、生活スタイルも中国文化のまま。模倣の町で一生懸命暮らす人たちの様子は滑稽だけど、なぜか懐かしい感じがします。作品の終盤には単なる模倣の町から新しいオリジナルの町への進化が見えてきます。
なお、この作品はNewImages Festival Paris Film Festival 2018など世界の映画祭で賞も獲得しています。
オススメのポイント
この作品はVRの中でも3Dofで見る360度動画です。この模倣された世界の町並みをぐるりと眺めることができます。ユーザーはこの模倣されたパリのど真ん中に立つという何とも不思議な体験ができます。
単純に撮影しただけではなく、360度カメラの移動やポジションなどにも工夫が見られ、さらにポイントクラウド(位置や色などの情報を持つ3次元データ)なども利用し、新しい表現に挑戦しています。
実際に旅行で行けなくても、映像体験で町の魅力が感じられるはず。これを機に知られざる町をVRで体験してみてはどうでしょうか?
作品データ
タイトル |
The Real Thing |
ジャンル |
ドキュメンタリー |
監督 |
BENOIT FELICI |
公開 |
2018年 |
本編尺 |
約16分 |
製作国 |
フランス / ドイツ / 中国 |
受賞等 |
NEWIMAGES PARIS FILM FESTIVAL 2018, WINNER (MASQUE D’OR) |
体験可能な場所 |
オンライン:VR Square、Within |
TEASER
REAL_THING_TEASER_3_VILLES_v6_EN_STEN from Artline Films on Vimeo.
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